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ECMのサウンドは、紫煙とアルコールに象徴されたオールドスタイルのジャズと一線を画している。「沈黙に次ぐ最も美しい音」というコンセプトのもとに構成された音は、どちらかといえばジャズの亜流という評価に甘んじていた。しかし、設立より30年以上にわたり独自のビジョンを貫き通していることは、売り上げ重視のメジャー・レーベルにはない魅力である。
著者の稲岡邦彌は、ECMの初期10年間に、日本のレーベル・マネージャーとしてかかわった人物であり、アイヒャーはもちろん、ECMミュージシャンとも親交の深い人物である。とはいえ客観的な見方に終始しており、読みやすい。
第1部では、年代別にECMとその音楽の変遷をたどっている。既成のグループを極力使わず、自らのイマジネーションを駆使してアーティストの組み合わせを決定した、アイヒャーの音楽哲学が明らかにされている。譜面のない、自由な即興演奏を愛したアイヒャーのプロデュース術はもちろん、ジャン・リュック・ゴダールの映画音楽プロデューサーとしての活躍など、コンテンポラリー・ジャズを超えた彼の仕事ぶりが興味深く描かれている。
第2部は、ECMの関係者やアーティスト41名によるECM論である。アイヒャーを天才として敬愛し、彼の描く音楽ビジョンに心酔している人や、アルバムジャケットのアートワークからECMを語る人、録音技術を論ずる人、そして、逆にマイナスの評価を下すミュージシャンの発言までもが取り上げられており、それぞれの証言から、アイヒャーとECMレーベルの強烈な個性が浮かび上がってくる。
ファンならずとも、ひとりの男の信念が作り出した音楽の歴史物語として興味深く読める作品だといえよう。(朝倉真弓)
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